The left image compares Leonardo's Adoration of the Magi with Botticelli's Adoration of the Magi.

未完の三賢王の礼拝

左の図はボッティチェリの東方三博士の礼拝とレオナルドの三賢王の礼拝のサイズを比較したものです。レオナルドの三賢王の礼拝がいかに大きいかがよくわかります。面積で言えばほぼ4倍です。

このボッティチェリの東方三博士の礼拝はレオナルドが三賢王の礼拝を描き始める3年ほど前に描かれています。この絵の画面左上にボッティチェリが描いたローマ時代の遺跡のような建築物は明らかにレオナルドの作品に影響を与えていることが分かります。また、レオナルドの画面右端の人物がこちらを見ているポーズもこの絵の影響でしょう。

レオナルドがボッティチェリに対抗心を持っていたかどうかは別としてこの東方三博士の礼拝の絵を参考にしていたことは間違いありません。

 

 


Adoration of the Magi

 

三賢王の礼拝

Oil on wood, 243 x 246 cm Florence, Galleria degli Uffizi, Inv. 1594


この絵はレオナルドが最初に手がけた大作で相当な意欲作です。

東方三博士の礼拝の主題自体は当時の教会関係者に広く受け入れられていた需要の多い主題で特に珍しいものではないのですが、このレオナルドの三賢王の礼拝はその他の作品とは大きく異なる特徴があり個性が際立っています。

もう少し他の作品に近い描写で制作すれば無難にまとめることもできるように思いますが、あえて革新的な構図や解釈を作品に盛り込む制作態度はレオナルド特有のもので、そのことは後に多くの作品制作依頼者との間に様々な問題を引き起こします。

この絵も背景のローマ時代の遺跡のような建築物まではそれほど特殊ではありませんが、その右側に描かれている馬の戦闘シーンは疑問に感じる描写です。『嬰児虐殺』のシーンを描こうとしているのかもしれませんが、単に馬の戦闘シーンが描きたかっただけのようにも見えます。

また、その下に描かれている大きな布のようなもので幕を張るような描写も謎です。この幕が何なのか、何をしようとしているのか全く謎です。もしかすると幕などではなく単に人物の背景を黒く塗りつぶしてその上からハイライトで何かを描こうとしているだけなのかもしれませんがとにかく不思議な描写です。

さらに周囲に集まる人物一人一人も何かしらのポーズが付けられているのですが、それが何をしようとしているのか、何を暗示しているのかも全く不明です。

このように、この絵の構成要素に関してはしっかりとした意味づけのようなものが欠けていることは否めないでしょう。もしかするとこうした異例の作品構成が教会側から異議を申し立てられ、最終的にこの作品は完成を待たずに制作途中で教会側から契約破棄を告げられた可能性も考えられます。その結果、ある程度の支払いを済ませている教会側に制作途中の三賢王の礼拝が引き取られ、新たな画家に制作を引き継ぐ予定が上手くいかなかったのがこの三賢王の礼拝が未完で残された本当の理由なのかもしれません。

肝心な絵に関してですが、この時期のレオナルドは人物の描写に稚拙なぎこちなさが目立ちます。

例えば、画面中央の聖母マリアの足の描写もその一例で、左足を上げてイエスを抱いているにもかかわらず、その左足のつま先は右足よりも奥に描かれるなど、全くつじつまが合わない描写となっています。さらに、それほど難しくはない右足ですら膝の位置が明瞭ではなく上半身との関係性が確立されていません。

挙げればきりがないのですが、イエスの右足も信じられないくらいの長さがあります。
三賢王では、右側の博士は首から腰までの長さが長すぎて背中だけが異常に大きい描写となり、右肘は逆に短すぎて誰の右腕なのかわからないくらいです。画面左端から二人目の跪く青年も右肘の位置が低すぎて人間の腕とは思えない描写となっています。画面右側に影の中に描かれている多くの人物の手のひらは全て人間の手の構造を示してはいません。

など、見れば見るほど稚拙さだけが目立つ絵画ですが、それでもこの絵にはレオナルドでなければ描けないような特徴をこの時代からすでに見せています。

それは画面全体に広がる大きな動きです。動きをもたせた人物を画面の中に自由に配置し、全体としてさらに大きな動きを作るというものです。

一人一人の人物を正確に描き、画面の中に並べただけの絵画はどこにでもある普通の絵画で退屈です。それに反してレオナルドの描く絵画は正確性はなくても他には類を見ないような魅力があり、思わず画面に見入ってしまいます。

この三賢王の礼拝もそんな絵画の一つで、いかに個々の描写が稚拙であってもそれらが織りなす全体としての魅力は特別なものがあります。

 

 

 

The Uffizi Gallery Museum

 

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